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    世界のチーズ特集VOL.10「シングル・グロスター」

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イギリスのグロスター地方には、毎年5月のバンクホリデーに、傾斜30度以上、長さ90メートルもある坂「クーパーヒル」を、転がるチーズを追いかけて駆け下りるという過激なお祭りがあります。何人もの負傷者が救急車で運ばれるというスリル満点のお祭りに参加する人は3,000人もいるのだそうです。

 この地方では16世紀から伝統的なチーズ「グロスター」がつくられていました。チーズの生産者たちは、脱脂しない乳で製造したチーズを販売し、自家用には脱脂した乳でつくったボソボソとしたチーズを食べていました。濃厚で味わい深い前者のチーズは「ダブル・グロスター」として流通され、工場製も登場、大量生産が始まりました。一方、後者は「シングル・グロスター」と呼ばれていましたが、生産をする人の数は年々減っていきました。

 この「シングル・グロスター」を復活させた立役者が二人います。一人はダイアナ・スマートさん。たった一人で「シングル・グロスター」を細々と製造し、そのさわやかでさっぱりとした味は人気がありました。「ダブル・グロスター」ももちろん評判が良く、クーパーヒルでは最も早く転がるチーズとして注目を集めていたと言います。

もう一人は、チャールズ・マーテルさん。1972年、当時26歳だった彼は絶滅しかけていた「グロスター牛」を守ることに情熱をかけていました。グロスター牛を守っていくためには、貴重な乳を生かさなければなりません。チーズづくりは素人でしたが、古いレシピ本を参考に試行錯誤を繰り返しながら「シングル・グロスター」を完成させました。グロスター牛への情熱は、ダイアナ・スマートさんにも伝わり、彼女の農場にもグロスター牛が戻ってきました。

 その後、二人は「シングル・グロスター」をPDOに申請し、1996年に登録。それまで「ダブル・グロスター」の影の存在でしかなかったチーズが見事に蘇ったのです。かつてのボソボソした貧しい農民のチーズではなく、今日の「シングル・グロスター」は、脂肪分も高く穏やかな酸味があり、しっとりとミルクの甘みが感じられます。サンドウィッチに、トーストにお好みでお召し上がり下さい。

【記事】チーズの案内人・本間るみ子
【問合せ】株式会社フェルミエ
所在地:東京都港区愛宕1-5-3 愛宕ASビル




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